8月 162012
 

買い物から帰った妻が「カマスを買ってきたので干物にして」と言う。続けて「はらわたは取ってある」とも。わたしが「はらわたが取ってあるという事は腹開き?」と聞くと、妻は「・・・?」という表情。

「干物は背開きでしょ」とわたし言うと、妻は「・・・そうか」と答える。妻は干物をどちら側から開くかなどという事には、これまで関心が無かったのだろう。わたしはそのカマスで「はじめての腹開きの干物」をつくった。

翌日思い立って調べてみると「干物は背開き」というのはわたしの思い込みでしかない事に気付かされた。世の中には「背開き」と「腹開き」の干物が入り混じっていたのだ。

Netで検索してみると、関西方面は開きが主流で、関東は背開きが主流との記述が多い。そしてその理由は以下の様なもの。「江戸は武士社会だったので、腹開きは「切腹」を連想させるため背開きになった」とか、「腹開きより背開きの方が簡単なので、腕の良い調理人の少ない江戸では背開きが一般化した」というもの。

この様な解説を読んで「そういえば、うなぎも関西は腹開きで関東は背開き」という事を思い出し、Wikipediaで検索したらありました。

Wikipedia.org/wiki/蒲焼

 
蒲焼きの項には“腹から裂いた場合蒸す過程で外側の身が割れて串から外れてしまうため、外側が厚くなる背開きが適し、また成長したウナギは背ビレが硬く、背開きによってその背ビレを取り除くためである。また、背開きをしたほうが、技術を要し手間がかかるが焼きあがった姿が美しくなる”とあります。「腹開きより背開きの方が簡単」と「背開きをしたほうが、技術を要し手間がかかる」と両方の記述があるという事は、どちらもそれほど違わないという事ではないでしょうか。

Wikipedia.org/wiki/ウナギ


 
ウナギの項には“江戸前の大きく太ったウナギを腹開きにすると、蒸す過程で身が崩れやすいために背開きにする”とあります。

ふっくらと柔らかくするために蒸す。そのため関東の蒲焼きは身が崩れやすくなる。特に身が薄い腹の部分はなおさらでしょう。そのため関東の蒲焼きは背開きになった・・・最大の理由はこれでしょうね。

干物もこの論理で考えられます。干物は魚を開き、洗い、塩水に浸け、塩水を切り、干し、回収するという、何度も人の手を介して作られる。その過程でいちばんダメージを受けやすいのは、薄くて柔らかい腹の身です。

腹の身の部分にはたくさんの腹骨があり、腹開きした魚を雑に扱うと身から腹骨が離れてしまいます。こうなると見た目が非常に悪く、商品としては失格でしょう。このあたりは身の柔らかいイワシで試すと良くわかります。

一方、背開きは傷みやすい腹の身の部分が、厚みのある背側の身で囲まれる状態となるので、腹の身を守ってくれます。つまり背開きは「柔らかい腹の身の部分が傷みにくい」という理由で選択される開き方という事になります。

「身崩れしやすいデリケートな魚」で連想したのは甘鯛(ぐじ)。関西では高級魚です。「あまだい ぐじ 開き 干物」等で検索してみると・・・

・・・果たして、ぐじの開きは関西でも背開きが主流の様でした。

こうした事実から、わたしが考えるいちばんの理由は「背開きの方が腹開きより、商品にした際の歩留まりが良いから」ではないでしょうか。

干物を少量作るだけなら、丁寧に作業を行えば腹開きでもきれいな干物を作る事はできるでしょう。しかし、大量に作るとなれば作業にはスピードが求められます。

そうなると開いた魚を洗ったり塩水に浸けたりする工程は、一匹ずつではなく、ざるやかごに入れたものをまとめて行う事になるでしょう。この場合には身崩れしにくい背開きの方が都合が良い事になります。

「腹開きは切腹を連想させる」という話が江戸時代に流布していたのは事実でしょう。いつの時代もまことしやかな作り話や、もっともらしい後付けの理由が庶民の定説になったりするものです。

しかし、「腕の良い調理人の少ない江戸では背開きが一般化した」という説には疑問を感じます。江戸時代に干物を作っていたのは調理人だったでしょうか。そうではなく漁師だったりその家族、または干物作りを生業とする干物つくりの職人だったはずです。大量消費地の江戸にたくさんの干物を供給するために、歩留まりの良い背開きが多く用いられたのだと思います。

次回はその他に背開きと腹開きの違いを考えてみよようと思います。

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