9月 142012
 

先日のエントリー「干物背開き腹開き 其の参」で、気温の高い時期に干物を作る時は、魚を干す際にアルコール度数の高い泡盛やウォッカをスプレーすると匂いを減らす事できると書きましたが、夏場はこうした対策を取っても匂いが気になります。

夏でも自分で干物を作って食べたい人(自分の事です)にお勧めなのが、浸透圧脱水シートの利用です。この浸透圧脱水シートに開いた魚をはさんで、冷蔵庫で一晩置くだけでおいしい干物ができるのです。

浸透圧脱水シート・・・何だか物々しい名称ですが「ピチット」という商品名で流通しています。簡単に説明しますと、水分を吸収する材料を、水分を透過する材料で包んでシート状にしたもので、これに食品を挟んでおくと、水分を吸収してくれるのです。

くわしい説明は下記のサイトをご覧ください。
ピチット:http://www.pichit.info/

ピチットを利用した干物造りの原理は、従来から行われている「文化干し」や「灰干し」の干物と同じものです。「文化干し」や「灰干し」では水分を透過する半透膜素材として「紙」や「セロファン」などが使用されます。また、水分を吸収する材料には「火山灰」や「シリカゲル」などが使用されます。(シリカゲルは無毒)

そうした文化干しや灰干しの干物を手軽に作るために開発されたのがピチットです。魚をピチットに挟んで冷蔵庫に入れられるという事は「低温」で「空気を遮断した状態」で干物造りができるという事ですから。素材の「酸化」を最小限に抑える事ができるのです。

干物は「天日干しが上等」で「乾燥機による機械干し」はその下と言われる事もありますが、天日干しのメリットは直射日光により干物の表面が素早く乾燥する事です。干物の表面が素早く乾燥する事で、内部の水分の減少が抑えられ、結果的に水分量の多いふわっとおいしい干物ができるのです・・・干物=水分が少ないとならないのが面白いところ。

我が家は最近はこれを多用しています。夏場が旬のアジはもちろん、最近はサンマをピチットに挟んで干物にしています。昨今はスーパーで頭と中骨を取ったサンマが売られていますので、それだと塩を振ってピチットで挟むだけという手軽さで干物を楽しめます。

・・・今回はピチットの宣伝の様になってしまいました。ところで、天日干しの干物と浸透圧脱水シートを使った干物では、どちらが脂質が酸化しにくいかといった実験が行われていました。それによると、やはり天日干しより浸透圧脱水シートの方が、脂質やタンパク質の変化が少ないそうです。

天日干しおよび浸透圧脱水法によるアジ干物調製における成分の変化
●http://libir.mukogawa-u.ac.jp/dspace/bitstream/10471/377/1/KJ00004532455.pdf

9月 022012
 

前回と前々回の考察で「背開きの干物は、生産者と調理者の双方に都合が良い」と結論づけました。

しかし「背開きの干物と腹開きの干物ではどちらがおいしい」のでしょう。こんどは「食べる側」から考えてみます。

小さな干物でしたら丸ごと食べる事もできますが、ある程度以上の大きさの干物になれば、頭やヒレ、中骨を残す事になります。

ここに背開きと腹開きの鰺の干物が並んでいる事にします。どちらも丁寧に加工され、均一に火が通されている物とします。この2つの干物を食べる場合、それぞれの違いを考えてみましょう。

干物を食べる順序は人それぞれでしょうから、以後の考察は順不同という事にしてください。

中骨と尾びれ:これは背開きでも腹開きでもはがしやすさに違いはないでしょう。中骨に付いた香ばしい身が、干物のいちばんの醍醐味という方もいるのでは?

:頭の肉はマグロ等の大きな魚では頭身と呼ばれてますが、一尾丸ごと調理して食する場合、頭と体の身は連続していますので、背開きではその部分が外側になり、腹開きではその部分が内側になるだけで、火の通りが同じなら食味や食感にも差は無いと思われます。あと、頭の部分というと頬の身=頬肉がありますね。私は鰺の干物であってもここをちゃんとつ突いて食します。

背びれ:箸で背びれとそれに付いた骨を外す際は、背びれが内側になる腹開きの方が、骨の周りの身がしっとりとしていて外しやすい様に思います。

胸びれ:背びれと反対に、胸びれは背開きの方が、骨の周りの身がしっとりとしていて外しやすいでしょう。しかし、胸びれとそれにつながる骨は、背びれの骨ほどとがっていないので、食べちゃう方もいるでしょう。そうなると腹開きの方が、この部分がこんがり焼けるので、食べやすいと思います。

こうして考えてみると、食べる際の背開きと腹開きの差は、それほど無い様に思えます。しかし、背開きは厚い背の身と薄い腹身の部分が、両方とも均一に焼け、食感も均一に近い状態になるのに対し、腹開きは身はほっこりと焼け、腹身はこんがりパリッと焼けて、部位による食感のコントラストが楽しめるでしょう。結論は「お好みしだい」という事です。

「干物は背開きだろう」というわたしの思い込みが、こうした考察のきっかけとなりました。当初は「干物には背開きの方が適している」という先入観もありました。

しかし、現在は背開きと腹開きを、魚の種類や大きさ、その時の気分や食べる人の事を考えて使い分け、その両方を楽しみたいと思う様になりました。

開き方だけではありません。「今日のお客様には、食べやすい様に背びれを外そう」とか、「いっその事、中骨も外してしまおう」というアイデアも湧いてきます。

こう思える様になったのは、腹開きのカマスを買ってきて「干物にして」と言った妻のおかげです。わたしはこの時はじめて「腹開きの干物」を作りましたが、今後は「背開きと腹開きの両刀使い」になる事でしょう。

【蛇足】私がはじめて作った「腹開きのカマスの干物」は頭も開きました。出来上がりを見て「何か違う」と思ったら、カマスの干物は頭は開かずに残すのが一般的でした。この「頭を開く干物」と「頭を開かない」干物にも。理由があるのでしょうか。

【蛇足2】機械で開いたホッケの干物は、中骨が二つ切られた「真ん中開き」になってます。これができるのはホッケの骨が硬くないからでしょうか。アジやサバでもこの加工ができれば、今まで食べられなかったサイズの魚の中骨が、食べられる様になると思います。

【蛇足3】干物作りは空気の乾燥した気温の低い時期が適しています。気温が高いと匂いが出てきてしまうのですよね。これは魚を干す前に、アルコール度数の高い泡盛やウォッカをスプレーするとかなり減らす事ができます。(泡盛やウォッカに塩を足しても良いかもしれません)

【蛇足4】日経の「食べ物新日本奇行」というコンテンツに背開きか腹開きかを集計した分布図が載っていた。Net上の(失礼ながら)安直な集計だろうから、精度は?だが楽しい図だ。

8月 222012
 

前回の考察で「丁寧に作業を行えば腹開きでもきれいな干物を作れるが、大量生産の場合は背開きの方が歩留まりが良い」と結論付けましたが、その他の背開きと腹開きの違いを考えてみました。

そして導き出したのが「干物は背開きの方が均一に火が通る」説です。

調理人はアジや鮎を一尾丸ごと焼く=姿焼きの際、見た目を美しく仕上げるためヒレに化粧塩(飾り塩)をします。薄いヒレは焦げやすいため、これをしないとヒレが黒焦げになったり、焼け落ちてしまうからです。

また、平べったい食材を直火で焼く際に火が強いと、中心よりも周辺=縁の方が焦げやすいですよね。これは、食材に均一に熱を当てた場合、縁以外の部分は下からの熱だけで加熱されますが、縁の部分は下からの熱に加えて、側面からも熱が加わるためです。

つまり、「薄い部分は焦げやすく」さらに「縁の部分も焦げやすい」のです。

これを干物に当てはめてみましょう。腹開きの干物は身が薄い腹の部分が外側になります。つまり薄くて焦げやすい腹身の部分が、これまた焦げやすい縁の部分に来てしまうのです。

こうなると腹身の部分には早く火が通ってしまい、背側の厚い身の部分に火が通ったころには腹身は焼けすぎてしまうという結果となります。

一方、背開きの場合は薄い腹の身が焦げにくい内側になり、身の厚い背の側には下からの熱と側面からの熱が当たるという、厚みの異なる食材に適した焼き方となるのです。

という事で、厚みの異なる食材は、内側を薄く外側を厚くした方が均一に焼くのに適しているという事になり、それはそのまま干物に当てはまるという結論です。

これだけ考察して「背開きは大量生産に適し」ていて、かつ「焼きやすい」という生産者側と、調理者側に都合の良い開き方だという事になりました。

しかし、丁寧に作業を行えば腹開きでもきれいな干物は作れますし、火加減を上手に操れば腹開きでもきれいに焼く事は可能でしょう。

次回は「背開きの干物と腹開きの干物ではどちらがおいしいか」について考えてみたいと思います。

8月 162012
 

買い物から帰った妻が「カマスを買ってきたので干物にして」と言う。続けて「はらわたは取ってある」とも。わたしが「はらわたが取ってあるという事は腹開き?」と聞くと、妻は「・・・?」という表情。

「干物は背開きでしょ」とわたし言うと、妻は「・・・そうか」と答える。妻は干物をどちら側から開くかなどという事には、これまで関心が無かったのだろう。わたしはそのカマスで「はじめての腹開きの干物」をつくった。

翌日思い立って調べてみると「干物は背開き」というのはわたしの思い込みでしかない事に気付かされた。世の中には「背開き」と「腹開き」の干物が入り混じっていたのだ。

Netで検索してみると、関西方面は開きが主流で、関東は背開きが主流との記述が多い。そしてその理由は以下の様なもの。「江戸は武士社会だったので、腹開きは「切腹」を連想させるため背開きになった」とか、「腹開きより背開きの方が簡単なので、腕の良い調理人の少ない江戸では背開きが一般化した」というもの。

この様な解説を読んで「そういえば、うなぎも関西は腹開きで関東は背開き」という事を思い出し、Wikipediaで検索したらありました。

Wikipedia.org/wiki/蒲焼

 
蒲焼きの項には“腹から裂いた場合蒸す過程で外側の身が割れて串から外れてしまうため、外側が厚くなる背開きが適し、また成長したウナギは背ビレが硬く、背開きによってその背ビレを取り除くためである。また、背開きをしたほうが、技術を要し手間がかかるが焼きあがった姿が美しくなる”とあります。「腹開きより背開きの方が簡単」と「背開きをしたほうが、技術を要し手間がかかる」と両方の記述があるという事は、どちらもそれほど違わないという事ではないでしょうか。

Wikipedia.org/wiki/ウナギ


 
ウナギの項には“江戸前の大きく太ったウナギを腹開きにすると、蒸す過程で身が崩れやすいために背開きにする”とあります。

ふっくらと柔らかくするために蒸す。そのため関東の蒲焼きは身が崩れやすくなる。特に身が薄い腹の部分はなおさらでしょう。そのため関東の蒲焼きは背開きになった・・・最大の理由はこれでしょうね。

干物もこの論理で考えられます。干物は魚を開き、洗い、塩水に浸け、塩水を切り、干し、回収するという、何度も人の手を介して作られる。その過程でいちばんダメージを受けやすいのは、薄くて柔らかい腹の身です。

腹の身の部分にはたくさんの腹骨があり、腹開きした魚を雑に扱うと身から腹骨が離れてしまいます。こうなると見た目が非常に悪く、商品としては失格でしょう。このあたりは身の柔らかいイワシで試すと良くわかります。

一方、背開きは傷みやすい腹の身の部分が、厚みのある背側の身で囲まれる状態となるので、腹の身を守ってくれます。つまり背開きは「柔らかい腹の身の部分が傷みにくい」という理由で選択される開き方という事になります。

「身崩れしやすいデリケートな魚」で連想したのは甘鯛(ぐじ)。関西では高級魚です。「あまだい ぐじ 開き 干物」等で検索してみると・・・

・・・果たして、ぐじの開きは関西でも背開きが主流の様でした。

こうした事実から、わたしが考えるいちばんの理由は「背開きの方が腹開きより、商品にした際の歩留まりが良いから」ではないでしょうか。

干物を少量作るだけなら、丁寧に作業を行えば腹開きでもきれいな干物を作る事はできるでしょう。しかし、大量に作るとなれば作業にはスピードが求められます。

そうなると開いた魚を洗ったり塩水に浸けたりする工程は、一匹ずつではなく、ざるやかごに入れたものをまとめて行う事になるでしょう。この場合には身崩れしにくい背開きの方が都合が良い事になります。

「腹開きは切腹を連想させる」という話が江戸時代に流布していたのは事実でしょう。いつの時代もまことしやかな作り話や、もっともらしい後付けの理由が庶民の定説になったりするものです。

しかし、「腕の良い調理人の少ない江戸では背開きが一般化した」という説には疑問を感じます。江戸時代に干物を作っていたのは調理人だったでしょうか。そうではなく漁師だったりその家族、または干物作りを生業とする干物つくりの職人だったはずです。大量消費地の江戸にたくさんの干物を供給するために、歩留まりの良い背開きが多く用いられたのだと思います。

次回はその他に背開きと腹開きの違いを考えてみよようと思います。

7月 122012
 


天然ならそのまま楽しむところですが・・・養殖の鮎なので干物にしてみました。いつかは藍藻を食べて育った鮎を食してみたいものです。

【追記】2012/7/20
いつもは3~5%程度の塩水に30分ほど浸けてから干すのですが、先日は振り塩をして冷蔵庫に入れたまま一晩置いてしまったため塩辛い干物になってしまいました。しかし、これをほぐしてお米と一緒に炊いたら、おいしい鮎ごはんになりました。