東南アジアのカブ人気の考察

スーパーカブのあの形はアンダーボーン型のフレーム形状とも呼ばれている。スクーターの様に足を揃えて乗ることのできるステップスルー型と跨ってのるオートバイ型の中間ともいえる形状だ。このアンダーボーン型のスーパーカブはなぜか東南アジア地域で絶大な人気がある。そのため各バイクメーカーもスーパーカブと同様な形状のバイクをラインナップしており、事実上スーパーカブはホンダの1車種でなくバイクの形状の呼び名になっている。つまり、スーパーカブの様な形をしていればヤマハであってもスズキであってもカワサキであってもカブなのであり、ヤマハのカブ、スズキのカブといった呼び名は日本でも十分に通用する。(蛇足だがベトナムではホンダが圧倒的なシェアを持ち、オートバイ=ホンダと呼ばれている。ヤマハのバイクはヤマハのホンダ、スズキのバイクはスズキのホンダである。)

そのため彼の地ではカブ人気が高じて日本人には思いもよらないバリエーションモデルが存在する。カブのスポーツモデルである。ホンダにはカブに100ccの高出力エンジンと派手な塗装とキャストホイールを与えたWaveやDream2という車種が存在するし、これに対抗するメーカーからは2ストのハイパワーエンジンにビキニカウル、ディスクブレーキといったスペックだけではレーサーレプリカとしか思えないようなカブ(型のバイク)も出されている。日本人の目からはどうしてこれほどカブ型のバイクが人気なのか理解できない。「速いバイクならNSRやCBがあるじゃないか。わざわざフレーム剛性の低いカブでスポーツモデルを造るまでもなかろう」と。

しかしこの発想は誤りである。人気のある車種には必ずバリエーションモデルが派生するのだ。日本やヨーロッパではスクーターにハイパワーエンジンやキャストホイール、ディスクブレーキ等を装備したモデルが存在し人気である。過去には日本でもスーパーカブをベースとしたスポーツカブというモデルが存在し、スポーツバイクの入門モデルとして人気を博していた時期もあった。もっとも、スポーツカブのフレーム形状はアンダーボーンでなく所謂オートバイタイプである。どうして東アジアではこれほどスーパーカブのアンダーボーン形状が好まれるのであろう。

バイクを自国で製造するだけの力の無かった時期に、安くて耐久性に富み、維持費も安いスーパーカブの中古車が日本から大量に流入した経緯は当然ながらその理由のひとつである。しかし、バイクを生産できる様になればオートバイ型であろうとスクーター型であろうと自由である。自国のマーケットに合った形を生産すれば良いハズだ。カブが人気ならカブも生産し、スポーツバイクも人気があるならNSRも造れば良いのだ。しかし東南アジアではカブなのである。

で、その時わたしの脳裏に浮かんだのはアオヤイ(アオザイ)だった。ベトナムの女性の民族衣装であるアオザイはタイトなシルエットでありとてもオートバイに跨る事など不可能。東南アジアの多くの国では現在でも民族衣装が日常的に着られている。そしてそれらの裾は一様にひざ丈とくるぶし丈の中間程度。カブなら運転可能であろう。スーパーカブのアンダーボーン形状を支持しているのは温暖な東アジア地域の女性たちとその民族衣装なのではないだろうか。

なお、カブよりも足を揃えて乗ることのできるスクーターであるが、タイヤ径が小さく悪路での走行性に劣る事や耐久性、維持費、積載性等の問題により好まれていない様である。また、同じ東南アジアでも台湾や香港等、比較的緯度の高い地域では女性の民族衣装離れが早い時期に進んだためカブ一辺倒といったマーケットにはなっていない。という事で、東南アジア地域でカブが廃れて行く様になるのは女性の民族衣装が日常でなくなった時なのではあるまいか。あるいは自動車がカブに取って代わる時なのかもしれない。

補遺 2001/3/17
アジア諸国でにスーパーカブ型アンダーボーンフレーム車の隆盛には税制面でのメリットもある様だ。カブ型のバイクはいわゆる荷役運搬用の商用車としてオートバイ型のバイクと区別され優遇されているらしい。オートバイは娯楽用の贅沢品だけどカブは実用品という見解なのだろう。日本でも自動車や軽自動車が後部座席の大きさ等で乗用と商用に区別され税制面で差を付けられているためツインカムターボの軽商用車が存在するのと同様でしょう。

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