限りなく無趣味に近い趣味

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“限りなく無趣味に近い良い趣味バイク”スーパーカブ

こういう事は本当は他人に説明したり、理解してもらったりする事でもなく、ひとりで密かにニンマリするだけで十分なのだけれど、カブの特集を組むというので黙っていられなくなって思わず公表してしまうのだ。

僕は最近“限りなく無趣味に近い良い趣味モノ”というのに凝っている。それは基本的にごくごく普通の目立たぬモノを身につけたり、使ったり、日常性に深く根ざしている慣習に従うというだけの事だが、単にそれだけでは良い趣味とは言えないところに奥義があるといえる。この奥義をつきつめれば典雅な風流といった世界が展開するはずだ。

2-3実例を挙げてみよう。プレーンなヘインズ社製の白いTシャツの上に、これまた白いオーソドックスなレギュラーポイントのシャツを組み合わせる。それは英国マーガレット・ハウエル社製あたりがぴったりなのだが、この上質なヤツを洗濯機でガンガン洗ってヨレヨレのまま着るのが渋い。ボトムはリーバイスの501。普遍的な中にも永遠性を感じさせるデザインが決まりだ。

靴は白いキャンバスのコンバース・オールスターのロー・カット。実にシンプルで目立たない組み合わせだ。煙草はなんといってもハイライト。あたり前的な中に懐かしい香りのするデザインが気分だ。ライターは近頃100円になったビックの地味な色使いのモノかスタンダードなジッポー。カメラといえばライツミノルタあたりか。

また日常生活においては“付和雷同”精神につきる。例えば皆と酒を飲みに行く。皆がオールドの水割りを頼めば、もちろん自分もそれに従う。間違ってもストレートやハイボールは頼まないのだ。ワケのわからないブランデーや、ましてはドライ・マティーニなどと気取ったモノを頼むのは恥とする。

ともすればどうしても頭をもたげてくる“目立ち”の欲望を抑えに抑える事が美に通じるという事を肝に銘じたい。「あいつは目立たない平凡なヤツだ」などといわれる事を無上の喜びとしてしまう。それは、とりもなおさず目立たず平凡に生きるというテーマに真摯な態度で取り組んでいる証拠なのだ。

こういった事は、単に安易にのほほんと日々を過ごそうとする事ではなくて、地味に目立たず、かつ平凡に生きるという事へのあくなき探求だ。そして美しき平凡な人生を深く味わうという、幽玄な悟りの世界に足を踏み入れるという事なのだ。

その他、挙げればきりがないが、ともかく“限りなく無趣味に近い良い趣味”というのは目立たず、地味で、平凡かつ永年の使用(反復)にも耐え、なお飽きることが無いモノと考えてみると非常に贅沢だ。

思えば、見るからにデザインデザインされたモノ。さらに目立つ事などは、飽きがくるのも早いような気がする。誕生して以来、現在まで不変のデザインで生産され続けているモノ。日常性の中で平凡で目立たぬ事こそが、好ましく感じられる。

小型のバイクでこんな欲求を満足させるモノといえばカブにおいて他無い。機能主義的に突き詰められつつも流れるようなライン。それでいて頑丈さを感じさせるデザインの価値は、発表後年月を経た現在だからこそ、なおさら高いと思える。

できればセルなどの付いていない、もっともベーシックなモノを選びたい。色はくすんだブルー、うぐいす色、ベージュあたりが最高だ。京浜東北線ブルーや山手線グリーンといったヤツも見かけるが、イマイチという気がする。

アクアスキュータムあたりの最高の素材(シーアイランド・コットンが最高だ)のレインコートなんぞを無造作にひっかけてクールにカブを乗りこなしたい。思わずほとばしり出そうになる鋭敏な感性を抑えつつ、淡々と目立たずに走りたいと思っている。

でもじつはワカる人にだけはワカってもらいたいというのが本音なのだ。

ジョー片瀬(筆者)

このコラムは1983(s58)年にザ・バイクという雑誌に掲載されたものです。筆者はジョー片瀬氏。当時わたしは22歳くらい。グレーの中古のC90で都内を走り回っており、わたしにとってのスーパーカブは、まさにこのコラムの通りでした。

その他の思考も志向も、嗜好も趣味もこのコラム同様。ヘインズのTシャツにリーバイスの501、ライツミノルタの後継機のミノルタCLEも持っていましたし、タバコは吸いませんが、ビックやジッポーのライターもその存在感に美を感じて持っていました。

ザ・バイク(The Bike)は1980年代のバイクブームに乗って、1981年に毎日新聞社から創刊されたバイク雑誌で、1988年まで出版されていました。

先ほどWebで筆者の名前を検索してみましたが、現在は何もHitしません。本稿は氏のコラムを無断で転載していますので、ご本人がご覧になりましたら是非お申し出いただきたいと思います。

限りなく無趣味に近い趣味” への2件のフィードバック

  1. こんばんは。
    スーパーカブ50周年の時に刊行された本のインタビューで「ジーンズのような」と言ってた杉山さんのコメントが気に入り時々使わせて頂いています。

  2. 長田さん「ジーンズのような」はまさにスーパーカブのための言葉ですね。C100発売時のカタログや広告にはおしゃれなモノもありますが、開発の目的が「実用品」な事はたしかです。実用品としてつくられたジーンズが「ファッション」や「自己表現」にまで広がったのと同じ道を、カブもたどって来たのですね。

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