『貴殿のご子息が Cub 50cc に乗っておられるとの事。つきましては、知り合いになりたく思います』
この手紙を書いたのは浮谷東次郎で、当時高校一年の16歳。受け取ったのは本田宗一郎で 『貴殿のご子息』というのは長男の博俊氏です。東次郎と博俊氏はともに1942(s17)年生まれの同い年。
東次郎は発売されたばかりのスーパーカブC100に乗った博俊氏の記事を雑誌で読み、宗一郎に手紙を書いたのです。手紙には彼が書いた 『がむしゃら1500キロ』 も添えられていました。彼らしい行動力です。
博俊氏は『当時僕は、父の会社が発表したばかりのCubに乗っていました。ですから彼にとっては、僕よりCubの方に会いたかったのでしょう』と述懐しています。
この手紙をきっかけにふたりは一緒に遊ぶ様になり、深い友情で結ばれてゆきました。それぞれの自宅は千葉県市川市と東京都新宿区で、近いとはいえない距離でしたが、多いときは2日にいちどの割合で会っていたそうです。また翌年の春休みに東次郎はYD-1、博俊氏はスーパーカブで浜松まで5日間の旅行にも出掛けています。
ふたりの友情はその後も続き、のちに博俊氏は東次郎が紹介した女性と結婚。その仲人は東次郎の両親がつとめました。
バイクや自動車と共に青春時代を駆け抜け、若くして世を去った浮谷東次郎と、エンジニアリング会社の無限を創業し、F-1にエンジンを供給するまでに成長させた本田博俊氏。このふたりの仲人役をつとめたのがスーパーカブなのでした。
Link: ウィキペディア:浮谷東次郎
Link: 三樹書房『浮谷東次郎―速すぎた男のドキュメント』
※本稿は2001年に書いた、カブ徒然『浮谷東次郎』を消してしまったため、2018年にあらたに書き起こしたものです。その後、元の原稿が見つかりましたので、下記の場所に置いてあります。
○カブ徒然『浮谷東次郎』
※『浮谷東次郎―速すぎた男のドキュメント』には、巻頭に本田博俊氏の『東次郎を偲んで』が掲載されていますが、初出は1974年に出版された『わが青春の遺産』のあとがきの様です。